新しい移住のかたち、小商いの可能性|「小商い」で自由にくらすを読んで
移住・地方に関する本が、年明けにどどどっと出版されていてずっと気になっていたのですが、最近こちらの本を読み終えました。
週末ごとに各地でいろいろなマーケットが開かれる房総いすみ地域。
移住がブーム?になる中で、これまでも移住・地方に関する本はたくさん出版されてきましたが、こちらの本はいすみに移住した人たちが取り組んでいる「小商い」に特化し、その生き方・働き方をていねいに紹介しています。
この本で取り上げる「小商い」は、このどれでもなく、「思いを優先させたものづくりを身の丈サイズで行い、顔の見えるお客さんに商品を直接手渡し、地域の小さな経済圏を活発にしていく」商いのことです。
地元産の材料を使ったケーキ屋さん。
ハンドメイドの靴屋さん。
はちみつ屋さん
実店舗があったり、なかったり。
いろんな小商いが登場します。
小商いを通じて今を生きる
この本に登場してくる人たちから、本当にやりたいことを「今」やる人が増えてきたんだなあと感じました。
右肩上がりの時代が終わり、リーマンショック、震災を経て、本当にやりたいことは定年後、〇〇が終わったらとかではなく、「今」やる。
また、今おくりたい「暮らし」が明確だから、じゃあこんな「小商い」の方法で暮らしを組み立てていこうという姿勢が伝わってきました。
まちづくりは結果論
また、筆者は近年デザイン性の高いプロダクトやライフスタイルで注目されているポートランドを紹介し、その根っこの部分には、
自らのものづくりと商いを突き詰めて、作り上げていくというDIY精神
があると指摘しています。
こういったものづくり、DIYの精神が、結果として魅力あるおもしろい地域を作り出していて、話を聞いた限り、いすみ地域には、自分のものづくりを「まちづくり」とつなげて活動している小商いプレーヤーはほとんどいなかったそう。
また、こういった小商いのプレーヤーが集まるマーケットは、行政主導による運営ではないというのも特長。
私が学生だった十数年前は、過疎化が進んで元気がなくなっていく町や村をなんとか元気にしたい!という「まちづくり」視点から入っていく活動が多かった。
一方で、続く・発展していく活動ってやっぱり個人の好きの連続で、「何かや誰かのために」ではないんだなあと改めて思いました。
インターネットと小商い
本の中で一番印象的だったのが、筆者がEC(ネットショッピング)部門に勤務していた頃のエピソード。
販売面に関してもっともわかりやすく効果を挙げたのは、顧客ごとにメッセージを変え、できるだけ1対1の関係に近づけたコミュニケーションを演出することでした(中略)。これは突き詰めると対面販売です。(※太字は私個人によるもの)
FBやInstagramなど、SNSも広告化が進んでいますが、その中でも、結局は個人にフォーカスしたマーケティングに収斂しています。
インターネット販売を成功させる分かれ道は、「便利で簡単」と同時に、どこまで商いの基本に基づく血の通った顧客コミュニケーションができるかです。
さらに本の中で登場する小商いのプレーヤーたちは、実店舗を持っておらず、さらにネット販売をしていない人が多いという事実が衝撃的でした。
筆者の言葉を借りれば、どんなものでもすぐ手に入る時代にありながら、手に入れることが全く簡単でないことを意味していて(マーケットに行かなきゃ買えない)、買い手や売り手を限定し、人間関係をデザインしているということ。
そういった方法で生活が成り立っているんですよね。
これって、いすみだからできることなんでしょうか。
国道沿いにイオンやユニクロが立ち並び、地域の均質化が進んでいる地方では、便利さを享受しつつ、それを退屈に感じている人も多い。
だからこそ、地方のどこでもこうした小商いの可能性があるんじゃないか思いました。
こちらの本は小商いの細かい部分、例えば、家族構成や小商いに対する初期投資の費用、商品単価、一日の最高・平均売り上げ、経費などがていねいに取材されています。
移住して何か小商いをはじめたいと考えている人、地域おこし協力隊や既存の会社に勤める以外の働き方で移住を検討してみたい人にはとても実用的な本で、おすすめです!