【本】「知ろうとすること。」を読んで

知ろうとすること。 (新潮文庫)

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早野龍五糸井重里
新潮社 (2014-09-27)
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書評：『知ろうとすること。』：ライフネット生命会長兼CEO 出口治明の「旅と書評」：オルタナティブ・ブログ

常々、出口さんは「数字・ファクト・ロジック」の重要性を説いて

おられるのだけど、私もセンセーショナルな報道は疑ってみることが

多く、それほんと？根拠は？と常々問うようにしています。

この本にまとめられているのは、東日本大震災によって引き起こされた、

福島第一原発後に東大の早野龍五教授がはじめたツイートと活動の軌跡です。

そのツイートは、データに基づいた事実を淡々と伝えるものでした。

当時、その姿勢・有り様は混乱の中にいた人々に指示され、

twitterのフォロワーは一気に3,000人から約15万人に増えたのだそう。

混乱の中で、科学的に正しい側に立ちたいという衝動の表れ

でしょう。

いま必要なことは、事実を知って正しく怖がること

と早野さんは言います。

私もこの本で、多くのことを知りました。

本を通じて知ったこと・理解したこと

①内部被爆に関しては大丈夫だったということ

取り込むと、将来、ガンになる心配があると言われている放射性のセシウム。

大人の場合は、100日ほどで体の中の量が半分に減っていくのですが、

これを時系列で観察することによって、初期の被爆やその後の食べもの

による被爆の程度がわかるんです。

実際、同じ人を測り続けたデータを見ると、日を追って数値が下がってい

くのがわかりました。つまり、新しいセシウムが体に入っていないという

ことです。

この結果から、事故の後、ひどく汚染された食べものを食べている人はいない

ということが分かります。

そして、たまに高い値が出てしまう人はお年寄りに多く、裏山のキノコとか山菜、

野生のイノシシなどを、事故後も継続的に食べていた人でした。そしてその程度も

10ベクレルという、ちょっともの。実際、食べるのを控えると、値は減少した

そうです。

（※ちなみに国の基準は、年間の内部被ばくを1ミリシーベルト以内。これは大体

1年間に５万ベクレル。）

早野教授は、この基準を

その人が親しんできた食文化を否定するほどの量じゃないとも言えます。

とも、表現されています。

②放射線で大事なのは、「量の問題」だということ。

とにかく人間の体に悪影響を及ぼすと思われているが、大事なのは量で、

放射線の害について話すときには、とにかく量を把握した上で検証することが

必要。

「私はちゃんと子どもを産めるんでしょうか？」と質問されたら、

「はい、ちゃんと産めます。」と自信をもって答えると早野教授。

それは、福島でたくさんの被ばく量を測定したデータを見てきて、内部被ばくと

外部被ばくを合わせた被ばく量が、十分に低いと確信しているからこそ

できることですね。

③甲状腺のガンは探せば見つかるということ

統計上、韓国が世界で一番甲状腺ガンが多い国なんだそう。

なぜかというと、乳ガンのエコー検診をするときに、道具が同じだから、ついでに甲状腺も検査しましょう、ということを大々的に行ったんです。で、結果的に他の国とは比べものにならないほど大勢の甲状腺を検査した。その結果、人口当たりの甲状腺ガンの患者数が、５倍以上に跳ね上がったんです。

韓国の検査対象は大人の女性で、福島の場合は子どものため、

「探せば見つかる」というのは早計だとの見方もあります。

今、福島では同じ人に対して時間を置いて2度目の検査が行われているそう。

チェルノブイリの場合、甲状腺ガンは事故の4〜5年後に発生していることから、

福島での検査と比較することで、原発事故の影響との関連性を検討できる

のではないかと期待されています。

大切なこと

①科学的リテラシーの重要性

　なによりも、なにをするにも起点になるのは「事実」なのだと強く思い

ました。いますぐに事実と分かること、そして、のちのちやっぱり事実だ

ったのだと認められること。このふたつを、とにかく目を光らせて探さな

くてはなりません。

と、糸井さんは言います。

事実が曲げられたり、歪められたり膨らまされた別な表現が加えられたり

していなければ、そこからまた、前に向かって歩き出せるからです。

教わって身につくものではない、科学的なリテラシーをどうやって身につけていくかは

子育てにおいても、自分自身についても今後の課題と感じました。

②そして、コミュニケーションの大切さ

内部被ばくも外部ひばくも低いにも係わらず、福島の避難地域に住む

約21万人の半分近くの方々が「被ばくの影響が遺伝するんじゃないかと考えている」

という2013年の調査結果があります。

（※インドのケララ州やイランのラムサールは、もともと自然放射線量の高い地域

として知られているが、福島の居住区域のレベルはそれと比較しても低い。）

正しいデータで事態を把握し、判断していくことは重要だけれども、

それ以前に、明らかになったデータが本当の意味で伝わっていない状況がある。

正しい情報が明らかになること＝心の問題の解消ではないんですね。

データそのものだけでなく、「表現の仕方」というようなことが重要に

なってくるという気がします。

だから、たくさんの第三者が、個々に「大丈夫だよ」って、当たり前に言

えること。正しいことを広めるお手伝いというか、「第三者であるぼく

も、その側に立つよ」っていう小さな意思表示というか。そういうこと

を、キャンペーンにするんじゃなくて、ひとりひとりが普通に実践するこ

と。

そういう弱い力が、なんか、今までも、こう、世界を作ってきた力なんじ

ゃないか、と思います。

と、糸井さん。

早野教授も、科学と社会の間に絶対的な断絶がある、ということに気づかざるを

得なかったそうです。

その隙間を埋めるために、早野教授はベビースキャンという科学的には必要のない

測定器を作成されています。これは、子どもの放射線量を測定できる機械。

大人の方がセシウムの代謝が遅く、体内に残りやすいため、同じ食事をしている

家族を調べて大人から検出されなければ、一緒に暮らしている乳幼児の被ばくは

心配する必要はなく、科学的にも問題はありません。

それでも、やっぱり納得してもらえない。

実際に測って「検出されませんでした」という結果が欲しいからです。

この機械がすごいのは、本当に測定できているということを示すために、

体の中にある誰もがもっている放射性物質の「カリウム40」がきちんと検出される

ことと、子どもが怖がらずに中に入っていられるように、工業デザイナーの方と

チームを組んでつくられているところ。

科学では説得しきれないことがある。

それは丁寧にコミュニケーションをとりながら、クリアしていく必要があるんだと

学びました。

事実はひとつしかないけれど、その事実をどう見るのか、どう読むのかについては

行く通りもの視点がある。そんな中、当時ツイートされた糸井さんのツイートは

とても参考になります。

ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かしてないほう」を選びます。「より正義を語らないほう」を選びます。「より失礼でないほう」を選びます。そして「よりユーモアのあるほう」を選びます。
— 糸井重里 (@itoi_shigesato) April 25, 2011